アブラコウモリの孤独

多分オタクです。2次創作作品の感想とかを書きたいと思ってます

このアイマス二次創作がすごい!(2)--『面妖ロードショー 第4夜 「Shall we ダンス?」』

 『朝焼けは黄金色』を皆さんはもう読みましたか? 小鳥さんの過去、順二郎社長と黒井社長の確執。アイマスの世界で長年謎とされてきたことが遂に明かされるということで、連載が発表された時とても衝撃だったことを覚えています。

 今頃になって、僕も第1巻を読みました。小鳥さんがとにかく眩しくて可愛いですね。正統派主人公という感じで堪らないです。これからデビューし、アイドルとしての階段を昇っていく彼女の物語にとてもワクワクさせられました。

  でもその一方で、まず間違いなく起こるであろうヘビーな展開に今から恐々としています。アイドル時代の小鳥さんを765プロの娘たちが良く知らない、という事実からしても、ほぼ確実に彼女はアイドルとして大成できなかったわけですから。

 だからひたむきな彼女を無邪気に応援することができない。読んでいる最中、そんな切なさに襲われました。

  僕と同じような感想を持った方にお勧めしたいのが、3倍録画Pことなんなのさんの作品『面妖ロードショー 第4夜 「Shall we ダンス?」』です。

 

 【あらすじ】

 ファン感謝祭を控えた765プロ。そんな中、社長とプロデューサーの様子がなんだかおかしい。小鳥はアイドルたちとその真相を探るのだが……。

 

【ここがすごい!】

 『面妖ロードショー』は名前からも分かるように、金曜ロードショーをモチーフとした「Novelsm@ster」です。様々な映画を題材にした連作で、第1夜『バック・トゥ・ザ・チーヒャー』と第5夜『バック・トゥ・ザ・チーヒャー PART2』以外、1つ1つの話に繋がりはないのでいきなり本作から見ても問題ありません。

 

  この作品の魅力としてまず挙げられるのはダンサブルなBGMでしょう。物語の要所を明るく軽快に盛り上げてくれます。というか、劇中で『セプテンバー』が流れる作品はみんな名作です。ソースは『最強のふたり』と『ナイトミュージアム』。

  DDRの収録曲がいくつも使用されているので、ファンの方はそこに注目するのも楽しいかしれません。

  劇中の曲に関しては最後にまた触れます。

 

 小鳥さんの持つ魅力を余すことなく楽しめるところもこの作品のセールスポイントの1つでしょう。ドジだったり腐っていたり、事務所の仲間でムフフな妄想をするようなダメな大人。優しくアイドルたちを見守るみんなのお姉さん。謎めいた過去を持つミステリアスな人物。

 物語が展開していく中で、色々な姿を小鳥さんは見せてくれます。詳しくは書きませんが、特に印象的だったのは終盤のプロデューサーとのやり取りの中で見せた姿。

 『朝焼けは黄金色』を読んでから、小鳥さんを見るたびに切ない思いを抱くようになった僕にとって、あのラストシーンは一種の救いのように感じられました。

 バックで流れる曲がID:[OL]なのもまたニクい。アイドルマスターシリーズを支えてきた裏方たちの歌であり、事務員音無小鳥の持ち歌。この物語のエンディングに流す曲としてこれ以上のものはないでしょう。

 

 3倍録画Pと言えば『COBRA THE IDOLM@STER』が有名ですが、この作品もそれに勝るとも劣らない名作です。小鳥さんファンの方は見て損は絶対しないと思いますよ!

面妖ロードショー 第4夜 「Shall we ダンス?」 - ニコニコ動画

このアイマス二次創作がすごい!(1)--『朝顔の小路』

 「このアイマス2次創作がすごい!」は連載的な企画として、僕が面白い・凄いと感じたアイドルマスター系列の二次創作を紹介して行きます。 SS、動画、同人誌。どれにしても作品数が多くて何を見たら良いか分からない!という方の助けになれれば幸いです。

 先ず第1回はヤスミツPさんの作品『朝顔の小路』。

 

 

【あらすじ】

 映画の出演が決まった高垣楓と今井加奈。撮影のためにスタジオへと通う日々の中で、2人はあることに気付く。 毎朝、私たちは同じ路地で同じ男の子に出会っている。一体どうして?

 

【ここがすごい!】

 作者のヤスミツPさんはニコニコ動画で「Novelsm@ster」というジャンルの動画の投稿も行っていらっしゃいます。どの作品もアイドル本来の持ち味を活かしたギャグやクスリと笑える何気ない会話がとても素敵で、個人的に大好きな投稿者様です。

  彼のその素晴らしいセンスはSSの分野でも遺憾なく発揮されています。どこがすごいのかと言えば、まずなんと言っても探偵に楓さん、その助手に加奈を配置したことでしょう。

 

 この作品は日常の中で生まれた謎とそれが解き明かされるまでを描いた、所謂「日常の謎」と呼ばれるジャンルのミステリです。米澤穂信さんの『古典部』シリーズや三上延さんの『ビブリア古書堂』シリーズが有名ですね。

 あまりミステリに関心のない方はしばしば、こういった作品に対して「どうしてわざわざその謎を解くのかが分からない、不自然だ」と言うことがあります。殺人事件ならば探偵が謎を解くことについて、身を守るためや正義感といった彼らが納得できる理由を用意しやすい。しかし、「日常の謎」はそうは行きません。あくまでも日々の出来事の延長にすぎないのですから。

  だから舞台設定や探偵の人物像に工夫が必要になります。その工夫が理解されないと、上に書いたようなトンチンカンな感想が生まれてしまう。(これは作品に問題があるのではなく読者のリテラシーの問題ですが)

  ここで楓さんが探偵役を務めることが大きな意味を持つのです。皆さんは、楓さんについてどんなイメージをお持ちでしょうか? 元モデル、呑べえ、ダジャレ好き等々たくさんの属性を持っている彼女ですが、マイペースでミステリアスな印象を抱いている方は多いように思います。

  近寄りがたいようで意外とお茶目で気さく、でもやはりどこか謎めいている……。そんな絶妙な距離を感じさせるキャラクター。読者は楓さんがどんな人間なのかある程度分かっているからこそ、彼女がこの謎に関心を持つことを違和感なく受け入れられるのです。

 

  一方の加奈もまた、探偵の助手としてうってつけのキャラクターと言えるでしょう。ワトソンに代表されるこういったキャラクターには、探偵の推理を助けるだけでなく、読者の代理人という役割も持っています。探偵は基本的に常人離れした存在です。一般人である僕たち読者にとって、彼らの思考は理解しがたい。

  調査を行い、手がかりを集める中で探偵は助手に自分の考えを語ります。そのやり取りを通して、作者は探偵の思考を読者へと分かりやすく説明するのです。読者と同じ立場に立つ以上、助手は一般的な感性を持っている必要がある。ですから、ワトソン役として描かれる際に、「普通の子」という彼女の個性は大きな武器となります。

  ここまでゴチャゴチャと理屈っぽいことを書いてきましたが、つまりは2人ともメッチャはまり役だということです。探偵として推理を語る楓さん。メモを片手に、それに耳を傾ける加奈。どちらもとても様になっています。

 

  また、加奈視点で綴られる丁寧な描写も魅力の1つでしょう。特に行きつけの和菓子屋へと立ち寄る場面が印象的でした。レトロで居心地の良さそうな店内。静かなやり取りの中で徐々に輪郭をはっきりとさせてゆく謎……。

 その穏やかで豊かな時間!

 ミステリの醍醐味と言える謎解きの過程を優しくて魅力的な文体で描いているのです!ヤスミツPの文章の虜になってしまって、僕はもう展開も全部覚えているにも関わらず何度も繰り返しこの作品を読んでいます。

 

  楓さんと加奈がアイドルとして過ごす最初の夏。そこで出会った不思議な出来事。その真相を是非、皆さんの目で確かめてください!